マラソンなどの長距離走をはじめ、走る動作を繰り返す方に多く見られるスポーツ障害です。医学的には「腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)」と呼ばれます。

太ももの外側には、骨盤から膝のすぐ下まで伸びている「腸脛靭帯」という長くて強靭な靭帯があります。膝の曲げ伸ばしをするたびに、この靭帯が膝の外側の出っ張った骨の上を滑るように動きます。
走る距離が長くなり、この「こすれ合い」が過剰に繰り返されることで炎症が起き、膝の外側に痛みが生じます。
ランナー膝の原因と症状

原因
最大の原因は「オーバーユース(使いすぎ)」ですが、以下のような要因が重なることで発症しやすくなります。
- 柔軟性の低下(ウォームアップ不足)
お尻や太ももの外側の筋肉が硬くなっていると、腸脛靭帯の突っ張りが強くなり、骨とこすれやすくなります。 - 身体的な特徴
日本人に多い「O脚」の方は、体の構造上、膝の外側に負担がかかりやすく、腸脛靭帯がピンと張りやすくなります。 - 練習環境やシューズ
アスファルトなどの硬い路面ばかり走っている、下り坂の走りすぎ、またはクッション性が落ちたり、外側がすり減ったりしたシューズを履き続けていることも原因になります。
症状
膝の「外側」を押すと痛い、走ると膝の外側が痛む、というのが最も典型的な症状です。
- 初期
ランニングの「中盤〜後半」や「走り終わった後」に膝の外側が痛み、しばらく休むと痛みが消えます。 - 中期
走り始めから痛むようになり、痛みのせいで思い通りの距離を走れなくなります。 - 重症
安静にしていてもジンジンと痛み、歩行時や、階段の昇降(特に下りる時)など、日常生活の何気ない動作でも強い痛みを感じるようになります。
ランナー膝の検査
問診や触診で、痛みの出ている場所や、普段のランニングの状況を詳しく伺い、以下の検査を行います。
【グラスピングテスト】
膝を特定の角度に曲げて外側を押さえながら膝を伸ばすテストを行い、痛みが誘発されるかを確認します。
【超音波(エコー)検査】
腸脛靭帯が腫れて厚くなっていないか、骨との間に水が溜まって炎症を起こしていないかをリアルタイムで確認します。
【X線(レントゲン)検査】
靭帯はレントゲンには写りませんが、疲労骨折や変形性膝関節症など、他の骨の異常が隠れていないかを確認するために行います。
ランナー膝の治療

重症化する前に早めに対処することが、早期復帰への一番の近道です。
1.局所の安静
痛みが強い時は、「走るのを休む」ことが最も重要な治療です。痛みを我慢して走り続けると、慢性化して治りにくくなります。
2.リハビリテーション
根本的な原因である「柔軟性の低下」を改善します。理学療法士の指導のもと、お尻(大臀筋)や太ももの外側の筋肉の念入りなストレッチを行い、腸脛靭帯の緊張を緩めます。また、膝に負担の少ないランニングフォームの指導も行います。
3.アイシング・物理療法
運動後には患部を氷などで15分程度冷やし、炎症を抑えます。当院では超音波治療器などを用いて組織の回復を促します。
4.薬物療法・注射
痛みが強い時期には、消炎鎮痛剤(湿布や塗り薬、内服薬)を使用します。どうしても痛みが引かない難治性の場合は、炎症を抑えるステロイド注射を患部に行うこともあります。
ランナー膝の予防法

・運動前後の入念なストレッチ
特に太ももの外側、お尻のストレッチを念入りに行いましょう。ストレッチポールを使って太ももの外側をほぐすのも効果的です。
・シューズの点検
かかとの外側が大きくすり減ったシューズはO脚を助長し、膝の外側に負担をかけます。定期的にシューズの状態をチェックし、クッション性の高いものを選びましょう。
・練習メニューの工夫
急に走行距離を伸ばすのは禁物です。また、硬いアスファルトだけでなく、土や芝生のグラウンドなど、足に優しいコースも取り入れましょう。
ランナー膝に関するよくあるご質問
Q. 痛くても、大会が近いので走りたいのですが…
A. 大会前に休みたくない気持ちもわかりますが、痛みを我慢して走ると炎症が悪化し、大会当日に実力が発揮できないばかりか、重症化する危険があります。
まずは練習量を減らし、水泳やエアロバイクなど膝に体重がかからない方法で心肺機能を維持しながら、治療とストレッチに専念することをおすすめします。
Q. 治るまでにどれくらいの期間がかかりますか?
A. 痛みの程度によりますが、初期の段階でしっかり休養とストレッチを行えば、数週間で復帰できることが多いです。
しかし、こじらせて重症化してしまった場合は、数ヶ月単位での長期間のリハビリと休養が必要になることもあります。
「痛みが引いたから」と急に元の距離を走ると再発しやすいため、復帰は少しずつ段階を踏むことが大切です。
Q. サポーターは効果がありますか?
A. ランナー膝(腸脛靭帯炎)専用の、膝の外側を適度に圧迫して靭帯の摩擦を減らすサポーターが市販されており、痛みの軽減には一定の効果が期待できます。
ただし、サポーターはあくまで補助であり、根本的な治療ではありません。ストレッチによる柔軟性の向上や、フォームの改善と併用して使用することをおすすめします。